〈内部空間〉
・夫婦の寝室、風呂やトイレは1階。キッチンはその直上の2階にまとめる。住機能としては最低限これで用が足りるはずだ。最初、建坪が9坪の総2階建てで、増沢洵の自邸「最小限住居」を参照したプランを提案したが、クライアントはその狭さを気に入らず却下した。(図10)
・コスト配分から基礎面積を増やす訳にはいかず(図11)、空中へ向けて新たなボリュームの追加を検討する(図12)。従って、内部空間の要望がここで外部空間の調整とリンクする。増加分はとりあえず用途の限定されていないボイドである。最終的に2つのキューブが敷地の斜面なりにずれて重なり合った空間配置とした。その部分は内装もしない。外壁の断熱パネルが露出している。性能上は問題なく、そのままでもそれなりにかっこいい。比較的つくり込まれた下のキューブに対して、同じボリュームでも魂が抜け出して漂うかのような空間が上にある格好だ。まるで最小限住居のゴーストである。見方によればそのぬけがらを背負っている(図13)。
・竣工して気付いたのは、機能的空間以上にこの"ゴースト"が重要な「気配」を生んでいることだ。そして最小限住居を出発点としながらもまったく趣の異なった計画となっていることにも気づく。空間を占有する満足感、眺望を生む立体的で特権的な位置の確保。どうやらこれらは本能的な欲望のようである。最初敷地に足を踏み込んだときに我々が感じた衝動を増幅している。"ゴースト"部分がそれを生み出し、支えている。光や外気といった環境をからめとりながら機能的空間に付随している。それは坪単価では説明の出来ない豊かさの獲得といえるだろう(図14)。
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