大阪・奈良の建築設計事務所:基本フォルム一級建築士事務所 研修所,研修施設,保養所。

 
 
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A学園教育研修所 (2010年)

学校法人の教員養成のための研修施設。海、空、周囲の緑が借景としてふんだんに取り込まれ、研修プログラムに人と自然が向き合う機会を生んでいます。





屋根から見たの海の景色。
2階は箱庭のようになっていて、その中で屋根はらせん状にせりあがっており、中庭から上に上がると水平線を望みながらリアス式海岸のパノラマが体感できます。

海は毎日表情が変わります。その眺望を室内外いろんな角度から味わうことで気持ちがほぐれていくのを感じます。 夕日は向こうの水平線に沈んでいきます。







建物を前の道路から見たところ。
ブラインドが閉じられている限り端正な外部からは中に螺旋屋根が内包されているとはうかがい知ることはできません。
2階の海側はガラスの開口部が巡っていて、内部を移動するに伴って連続的に眺望の変化を楽しむことができるようになっています。

敷地と海の間には道路があります。中から車などはあまり見せたくありませんので2階のバルコニーを張り出しています。1階ではそれが深い軒庇となって、雨のかからない外部回廊を形づくっています。

人の不在時間が長いので防犯上1階はコンクリートと鎧戸で閉鎖的かつ堅牢な造りになっています。

基礎が地面から1メートル上がっているのは1階部分からの眺望の確保と津波対策のためです。道路は海面から4メートルから5メートルほどの高さにありますが、行政のハザードマップによると南海地震でこの道路レベルから0.5〜1.0メートルの海面上昇が予想されているということで、それに対応した格好にもなっています。

さらに1階は津波に強いとされるRC造とし、2階は開放性の高い鉄骨構造としています。








アプローチ正面
玄関までには車いす対応のスロープがあります。
正面の斜めの部分は階段です。階段を上がるにつれ、海の景色が目に飛び込んでくるような仕掛けです。

ガラスのファサードへの空の写り込みをスロープを上がりながら感じることができます。









2階中庭の風景。
非常に開放性の高い空間になっています。
敷地周辺の地形や物の位置、角度や高さを計算して、周囲の建物はできるだけ隠しながら、純粋に海と空と緑を味わうことができるように建物を設計しています。









研修室
屋根スロープの形がそのまま吹き抜けの天井に生かされています。
この部屋は海とは反対側に置かれた独立した空間とすることで落ち着いて研修が行われることを意図しています。

自炊室が隣接していて、調理実習も研修プログラムに折り込むことができます。
床下は空気が流れるようになっていて、エアコンのリターンエアーのダクトを兼ねています。








スカイコート
自然の移ろいに合わせて刻々と光の表情を変えていき、波の音が遠くに聞こえる荘厳な場所です。
電気設備はあえて排除し、照明はロウソクのみとしました。
人工的な設備に慣れきった現代人にとって、そういうものから解放されるための場所があってもいいのではないかと思い、いくつかのフォーマット(ご想像にお任せしますが)を参照しながらこのような部屋をつくりました。

他の空間が動的な位置づけがなされているのに対してここは静的な場所であり、また建物の一番奥に隠されたように置かれています。ここは静かな瞑想の空間です。





屋根スロープ

ガラス越しに遠くの半島や水平線が見えます。
海というのはロケーションとして素晴らしい要素ですが、ずっと向かい合うのはそれはそれで辛いものがあります。そんな時、海側のブランドを下ろすといったん海は遮断され、中庭にのみ解放された場所になります。しかし、スロープによってどこか海とはつながりが保たれます。
司馬遼太郎の小説に「坂の上の雲」というのがありますが、何かそういう実際に登る以上にその頂の向こうに何が見えるのだろうという期待のようなまなざしを示したもののような機能とはいえない機能があるように思います。

スロープは微妙なムクリと反りが混在する均一ではない揺らいだ曲面をしています。
これは 砂浜や川床など水辺地形のメタファーでもあります。近くには遠浅の広川ビーチがあり、海水浴の後には砂浜に寝転がった印象や、波に揺られた印象が身体に残っているものですが、夜に星を眺めるようにここに寝転がれば一日を振り返りながらそれらが蘇ってくるのではないでしょうか。

地形や造形としては連続していませんが、一種の飛び地を建築に取り入れるという手法、身体に刻まれた記憶を通して時空を飛ばして自然環境とつなげるという方法をこの建物では行っています。

一方、屋根本来の機能である水の排水についても、雨天には薄い水の膜が流れる川のように、晴天時には水の無い川床のように、自然の営みが転写されたような形状を意識しています。集められた雨水は壁から突き出たガーゴイルで5メートル下の水受けに注ぎ込まれます。





2階休憩室
海側に向けて大きな横長の開口があり、フルオープンにするとまさに海上に浮かんだ部屋のような臨場感があります。
中央より左側の中庭部分には薄く水をためることができます。その時は飛び地の渚が現れたかのようになり、まるで無限大の水平面を獲得したような錯覚を覚えます。

屋根の部分でも触れましたが、視覚、聴覚、身体記憶によって外部環境とつながりを持ち、時空を問わず少しずつ身体が溶け出していくような現象を建築によって造れたらなという思いがあります。その時はむしろ建築そのものは見えなくなるような、究極としてはそういうものができれば本望だと考えています。




中庭夕景
夕暮から日没にかけてこの場所は大変ドラマチックな変化が生じます。
空が暗くなるに従い、自然の光と人工の光が屋根のスロープで不思議なグラデーションを描きます。

完全に暗くなると漆黒の空に吸い込まれていくような錯覚を覚えます。

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