大阪・奈良の建築設計事務所:基本フォルム一級建築士事務所。建築家 高橋俊介による主催。21世紀京都のグランドデザイン。
 
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GROUND SCRAPER (1997年)

物理的に都市の表層を削ぎ落とすという手法を用いて、過去にその場所が持っていた良質な特性を回復しそれを利用して新たな付加価値を見出す。拡大発展、平面分割を指向している現在の都市計画とは違う視点からのアプローチを試みた。

コンペ概要より
京都は、建都以来1200年余りの、歴史、文化が生活・産業に息づく、世界的な文化都市であると共に、国際文化観光都市、ものづくりとし、大学都市など、さまざまな顔を持つ、146万市民が暮らす個性的で魅力的な大都市である。
各時代を重層する文化と美しい自然景観を保持し、大部分の日本人と多くの外国人にとって特別の地位を占める京都は、これまでから、開発と保存の調和などのまちづくりのあり方をめぐり、内外で多くの議論を巻き起こしてきた日本における特別の存在感を持つ都市である。
私たちは、京都が抱える問題は、日本さらには世界の都市が直面する都市文明の必然とも言うべき普遍的な課題を指し示していると考える。
また、都市は変容を遂げつつある現代社会をストレートに映し出す鏡であり、1200年の歴史の蓄積を持つ京都の将来ビジョンを示すことは、必ずや、現在および将来に同様の問題を持つことになる世界の諸都市にも大きな示唆となり得ると考える。
このような認識の下、本国際コンペでは、世界の英知を結集し、50〜100年後を目途とした21世紀の京都のあるべき姿とその実現のために取り組むべき具体的なプロジェクトの提起を求めた。

本コンペは、専門審査および総合審査の2段階の審査が行われた。
国内外からの応募作品554点の中から専門審査(第1次〜第5次審査)を34点が通過。総合審査にてその中から優秀賞5点、佳作10点が選出された。「GROUND SCRAPER」は専門審査を通過するという快挙を遂げたものの惜しくも受賞はのがした。

コンペ報告・経過ページ
京都市の総合計画
製作協力者 Studio In's Factory

提案内容
風景・世代について
・風景
風景を喪失するという経験は、個人だけでなく社会が今まで培ってきた風習や、価値観に大きな影響を及ぼす。戦争や災害による大規模な都市破壊はその顕著な例である。20世紀後半の急激な産業・経済の成長による都市の拡大は、社会に物質的な豊かさをもたらしたが、その反面幾世代にもわたって継承してきた風景及び文化的財産を手放すこととなった。日常の変化は徐々に顕在化していくため、戦争や災害後のような社会規模の精神的外傷は表向き発生していないかの様に見えるがものの、現在の社会は慢性的な喪失感により、その発展の方向に疑問を抱きながら拡大を続けている。

・世代
家族が小規模化している。そのため、我々は都市生活を送る中で時間的尺度としての世代の感覚を喪失しつつある。多人数の共同体は生活手段としての役割を終え、多様化した生活様態が個別化を生む。それが家族の解体を助長している。家族の小規模化はまず世代間の生活実感の距離を拡大する。既存の教育制度、医療、福祉制度が個人ではなく、世代間による分割を指向しているからだ。世代間の断絶はリアリティーのある歴史的連続性からの切り離しを意味する。かつて異世代からの伝承で得られた時間の連続性は失われつつあり、歴史とは生活実感を超えた遠い出来事へと変化している。これらの世代感覚の喪失は社会的アイデンティティーの希釈化を招く。

(1)はじめに
【先祖返り】−ある系統の個体に、その先祖が持っていた形質が再現する現象。
いろいろな時代の表層を一枚一枚重ねるように都市は変貌する。京都の町は時代の急激な変化の中で次々と表層を塗り重ねて方向性を見失っている。この提案では物理的に都市の表層を削り落とすという手法を用いて、過去にその場所が持っていた良質な特性を回復、それを利用して新たな付加価値を見出す。日常の中で忘却せられているもの、本来持ち合わせている財産を都市骨格として利用する。古いものに対する認識を固定しない点で懐古主義とは一線を画す。

(2)歴史性について
京都が日本のほかの都市と比べて明らかに違うといえる特徴の一つは、歴史的遺産の濃度が高いという点である。文化遺産として保護されているもののみならず、市街のいたるところに多様な営みの形跡がヒューマンスケールで散在している。歴史性は共同体のアイデンティティーを継承していく上での重要な基盤となる。

【遺跡都市】
京都は有史以前より時代ごとに積み重ねられた複合遺跡である。京都市域では年間1300件を超える発掘届出書が提出されている。近年開発に伴う建築土木工事により遺跡の破壊が着実に進行しており、我々は1200年以上に渡って積み重ねられた歴史の証拠をこの数十年で消去しようとしている

【遺跡とともにいきつづけること】
遺跡とともにいき続ける。ここで言う「共に」とは、ガラスケースに入れられた遺跡を博物館のように展示管理するという意味ではない。生活行為の環境として取り入れていくということである。事実、古代に造営された地形は、実は微妙な高低差や地名、行政区分として現代に生きていて、無意識的に使い分けが行われている。それが逆に、隠された史実を浮かび上がらせているということがある。それをもう少し意識的に行ってみてはどうだろう。


武家屋敷の発掘遺跡
(財)京都市埋蔵文化財研究所 発掘ニュース24より(’97.8)
 
V都市骨格の整備
A.面・線的整備
人間が身体の移動により生活を営んでいる動物である限り、土木的な構築は都市骨格を形成する上でなお有効性を保つと考えている。


(2)『平成のお土居・建築廃棄物』
建築物はやがて淘汰される。京都市中で発生する建築廃棄物の量はかなりの量にのぼると見られる。残土・コンクリート系の廃棄物の一部は市中に捨て場を設け、丘を作る。位置は「お土居」を基準位置とする。ただし、連続した土塁を再現するのではなく、独立した細長い丘が断続的に京都に点在させる格好となる。自然環境の借景要素を都市文化のメモリアルとして市街地域に取り入れる。防災面では火よけ山としての役割を担う。

(3)「河原者」河原空間の再現
鴨川の河原はかつて文化の発信エリアであった。鴨川の河原は南北方向の眺望を確保し、夏には涼を求める町衆が河原を埋め尽くした。屋台の出店や芸能集団が繰り出すなど大変な賑わいだったといわれる。ここでは河原と一体になった空間を両岸にまで拡張している。

(4)都市機能の分離
情報テクノロジーの発達に伴い、オフィススペースの分離、特化が進む。現在検討されている京都−山科−長岡京を一巡する環状線はそれぞれ役割の違うエリアを補完する。

B.点的整備「覆い屋/おおいや」
巨大なインフラを伴った都市フレームとは対照的に、中規模かつ単独で成立するインフラと公共的機能が備わった構築物を、地域の文脈を汲み取りながら散在的に都市の各所に設置する。これは、点在的に発掘が進められる遺跡の上に覆いかぶさる様に構築する。(高機能の覆い屋/以下「覆い屋」と呼ぶ)


覆い屋を架けて発掘が進む遺跡
(1)「覆い屋」補足
遺跡を保存するには一般にその遺跡の重要度に応じて階層がある。重要かつ長期間露出に耐えられない遺跡を発掘する場合、または保存する場合その箇所に覆い屋をかける。この提案では保存の定義を拡大解釈し、行政による遺構の管理指針をもとに「覆い屋」という建築的ボリュームを一般に開放する可能性を検討している。遺跡の重要度に応じて管理の強弱が設定されるがその強弱によりバリエーションが生じる。
A粗密分布の発生=路の発生 と現状の都市フレームとの置き換わり
「覆い屋」の設置は結果的には過去の都市骨格によって形成された微地形をリサイクルすることに他ならないが、多種多様な機能に分化していくとき歴史的密度の濃さ、地域の活性度などの影響を受けるため、均一な分布とはならない。また「覆い屋」は広い意味での公共空間である為、設置密度が濃くなるに従い互いに関係性が生まれ、それらをめぐって商店街のように人が歩行する経路が発生する。この経路は新たな地域価値を伴った歩行者空間となる。
 

京都の未来
京都は高度産業拡大の時代に培われた、都市成長のプログラムを一旦放棄する。
削り出しの手法(GROUND SCRAPER)によって、価値を顕在化させる。現在の建築廃棄物はお土井となり、過去の遺跡は「覆い屋」となって京都の景観を覆いつくしていく。高台から見るとその景観は明治期のような低層の町並みに20世紀末に建設された中高層の建築物が、日本庭園の飛び石のように点在するものとなる。植物の世界では朽ち果てて倒れた樹木に次の世代が芽を出し成長していくことを倒木更新というが、我々は次の世代に向けた文化精神を育む都市を作り出すことを夢想している。

終わりに
過去に未来都市の想像図をあらわした絵画や都市プランは枚挙にいとまが無いが、いずれも製作された時代の思想的文脈の延長線上に置かれている。我々には、未来を描ききることが出来ないのだ。ここで行うことが出来るのは、未来にどのような都市を継承できるか、我々は何を基準にいかなる土壌を将来のために用意することが出来るのかということであり、実験・検証し続けるということが重要である。


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